皆さんは「タンムリアータ」という(ジャンルの)音楽をご存知でしょうか?僕も今度ナポリに行くまでは、ただタンムーラ(タンバリンの大きいやつ)を叩きながら歌い踊る、中世だかルネッサンスの頃の古いナポリの民族音楽ということぐらいしか知りませんでした。
1日目の夜の広場でのアレッサンドロ達のバンド演奏の時も「タランテッラ」や「タンムリアータ」を今晩はやるからと聞いていましたが、知らない曲ばかりだったので、どれがそのタンムリアータなのかよく分かりませんでした。そしてスパッカナポリの路上で歌っていたときに知り合ったエリサという女性の誕生日パーティーに招かれて、遂にその本物と遭遇、もの凄く大きなインパクトを受けてきました。
パーティーが始まってしばらくしてまず頼まれて僕が何曲か歌いました。ここまでは予想範囲。反応もいつものようにとても良かったです。夜も11時近くなってから家の窓を全部開け放して、薄暗い照明のなか、僕にとっては実に「異次元の幻想」だったそれは始まりました。

タンムーラ以外伴奏楽器は特になく、そのリズムに合わせて横に立つ歌手が歌って行きます。言葉は全く意味が分からない古いナポリ語。メロディーはカンツォーネのようにメロディックではなく、言葉のリズムとイントネーションに合わせて抑揚が付いているという感じで単調。しかし今までに全く聴いたことのない声でした。真似して見ろと言われても僕には無理。たとえて言うなら、だみ声じゃない浪花節みたいな発声。そのインパクトは強烈で、中世、いやむしろ古代のアラブとギリシャの匂いが漂いはじめ、ぐいぐいその不思議な世界に引き込まれてしまいました。
すると両手にカスタネットを持ったひと組の男女が現れてカスタネットを鳴らしながら踊り始めました。しばらく踊るともう一人の女性が2人に割って入り、今まで踊っていた女性が見物にまわり、新しい女性と男性が又踊り続けます。リズムはタランテッラほど早くなく単調。カスタネットも単調なリズムを刻みます。単調なリズムの繰り返しというのは麻薬的効果を発揮します。僕の持っているカンツォーネの資料の中に、多分16〜7世紀頃の踊る男女の絵があって、彼らの腕の動きや仕草がその絵とそっくりなのです。違うのは着ている服だけ。え〜っ、こんな世界がまだあったのか!と驚くやら感動するやら、じっとその時代にタイムスリップしたような不思議な感覚に身をゆだねました。
やがて夜もふけて12時を過ぎた頃、隣の部屋に場を移し、大勢の出席者達が踊り始めました。この夜のヒロイン、エリサも不思議なムードを醸しながら踊っていました。タンムーロと歌の爺さん達以外、出席者は若い人が大半。決してこの古くから伝わる音楽と踊りが年寄りだけの物でなく、ナポリの庶民達に今も愛され続けていることを証明していました。


一緒に行ったアレッサンドロもエリサと踊りっていました。お前は踊らなかったのか?って?ええ踊らなかったです。初めのうちは唖然と、やがてその不思議な世界に陶酔していました。
まるで中世の幻想を見ているかのような夜でした。とっくの昔に廃れていると思っていた世界が、まだ何と現役で、力強いエネルギーの固まりのように生きていた!
僕はさすが疲れて1時過ぎには退散してきましたが、中世のまま残っているようなカポディモンテに近いサニタ地区のエリサの家からは、止まないタンムリアータの音が遠くまで響いていました。